賃金の取扱
労働者にとって賃金は生活の根拠となるものであるから、使用者からきちんと一定期間毎に受け取れるよう法で規制されています。賃金の定義は法11条(総則のページ)にあります。
賃金の支払い方法
法24条1項
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。但し、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定める場合においては、通貨以外のもので支払、また、法令の別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」
法24条2項
「賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(法89条において臨時の賃金等という)については、この限りではない。」
通貨払いの原則
賃金は通貨で支払うことが原則である。
(例外)
・法令で別段の定めがある場合
・労働協約に別段の定めがある場合
・退職手当に関しては労働者の同意の下金融機関振出小切手、支払保証小切手、郵便為替
・労働者の同意を得て口座振り込み等により支払う場合(施行規則第7条の2)
賃金等を労働者の指定する本人の預金口座、貯金口座に振り込み、または証券総合口座に払い込むことができるが、賃金支払日当日に払い出し、または払い戻しうる状況にあることが必要である。
いわゆるデジタル通貨での支払い(施行規則第7条の2の第3号)の場合は書面による同意が必要であり、労働者に対して負担する為替取引に関する債務の額が100万円を超えないようにするための措置を講じる必要がある。
直接払いの原則
原則:賃金は直接労働者に支払わなければならない。代理人による受取は認められていないが、死者による受取は認められる。
例外:国税徴収法または民事執行法に基いて賃金債権が差し押さえられた場合、使用者は行政官庁に納付し、または差押債権者に支払うことは全額払いの原則に違反しない。但し、民事執行法に基づく差し押さえについては差押限度額が定められている。
全額払いの原則
原則:賃金は、その全額を支払わなければならない。
例外:法令に別段の定めがある場合=税金、社会保険料の源泉徴収は事業主に義務づけられている
労使協定1がある場合(行政官庁への届け出は不要)
毎月1回以上払いの原則
原則:賃金は、毎月1回以上支払わなければならない。
例外:臨時に支払われる賃金、賞与、その他1月を超える期間について支払われるもの(施行規則8条)は毎月1回以上支払わなくても良い。
一定期日払いの原則
原則:賃金は一定の期日を定めて支払わなければならない。
賃金支払日を毎月25日のように決める必要がある。毎月月末という決め方は許容されているが、毎月第4月曜日などの決め方は許容されていない。
罰則
罰則は30万円以下の罰金である。(法120条)
但し、本条違反の場合は包括的に1罪が成立するものではなく、各支払期日、各労働者毎にそれぞれ1罪が成立するものと解されている。
非常時払
法25条
「使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない」
厚生労働省令は施行規則9条である。
罰則は30万円以下の罰金である。(法120条)
休業手当
法26条
「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」
使用者の責めに帰すべき事由に該当する場合
民法の債権者(この場合使用者のこと)の責めに帰すべき事由(民法536条2項)の解釈に従えば、使用者の故意・過失又は信義則これと同一しうる事由ということになるが、労基法においてはこれより広く、経営者として不可抗力を主張し得ない全ての場合を含むと解されている。
従って、天災事変のその他の自然現象による場合はこれにあたらないが、使用者の故意・過失による場合は勿論、資金難とか原材料不足などによる経営障害の場合が使用者の責めに帰すべき事由に該当する。
使用者の責めに帰すべき事由に該当しない場合
上記に該当しない場合が該当しない。例としては以下のことがあげられる。
- 一部ストライキの場合、他の労働者のみでは正常な就業が出来ないため、休業した場合(判例)
- 労働協約、就業規則等で休日とされている日に休業した場合
- 労働安全衛生法の健康診断の結果、私傷病のため医師の証明に基いて使用者が労働者に休業を命じた場合
罰則
罰則は30万円以下の罰金である。
このほか、裁判所は労働者の請求により未払い分の休業手当と同一額の付加金の支払いを命ずることができる(法114条)
出来高払いの保証給
法27条
「出来高払いその他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」
出来高払い制の保障額の定めは特になされていないが、おおよその目安として、少なくとも平均賃金の100分の60程度を保障することが妥当とされている。
罰則は30万円以下の罰金である(法120条)
最低賃金
法28条
「賃金の最低基準に関しては、最低賃金法の定めるところによる。」
最低賃金法の各条文はこちらを参照していただきたい。
まとめ
使用者は賃金は通貨で、直接労働者に、全額を、毎月1回以上一定期日に支払わなければならない。
例外は法令、労使協定に定められた場合に一部控除したりすることが出来るくらいです。
脚注
- 労使協定とは、使用者が当該事業所に労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者との間に締結した書面による協定をいう ↩︎
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