労働契約とは
労働契約は労働者と使用者が個別に結ぶ契約です。労基法では労使間で使用従属関係があると言うことで民法の雇用契約とは異なる定めをすることで、労働者の保護を図る目的があります。
法13条
「この法律で定める基準に達しない労働条件を定めた労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。」
労働契約における法定事項
労働契約の契約期間
法14条1項
「労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、5年)を超える期間について締結してはならない。
1 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第41条の2第1項第1号において「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
2 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)」
長期労働契約による人身高速の弊害を排除するため、労働契約の最長期間を「原則3年」に制限したものである。
専門的知識等であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準とは以下の通りである。
- 博士の学位を有する者
- 次に掲げるいずれかの資格を有する者
公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士、弁理士 - 情報処理技術者試験のうちシステムアナリスト試験合格者、アクチュアリーに関する資格試験合格者
- 特許発明の発明者、登録意匠を創作した者又種苗法に規定する登録品種を育成した者
- 一定の学歴及び実務経験を有する次の者で年収が1,075万円以上の者
農林水産業の技術者、鉱工業の技術者、機会・電気技術者、建築・土木技術者、システムエンジニア、デザイナー
(学歴及び実務経験の要件は、大学卒+実務経験5年以上、短大・高専卒+実務経験6年以上、高卒+実務経験7年以上。学歴の要件は大学等で専門的知識等に係る課程の専攻が必要) - 国・地方公共団体・民法第34条の規定により設立された法人その他これらに準ずる者によりその有する知識、技術又は経験が優れたものであると認定されている者。(上記に掲げる者に準する者として厚生労働省労働基準局長が認める者に限る)
法附則137条
「期限の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る)」を締結した労働者(法14条1項各号に規定する労働者を除く)は平成15法附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以降においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
(補足)期間の定めのない労働契約はいつでも解約できると考えられているので有効とされている。
労働条件の明示
法15条1項
「使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対し賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」
絶対的明示事項(必ず明示しなければならない事項)
労働基準法施行規則5条1項1号から4号で明示を義務づけられている労働条件は以下の通りである。
- 労働契約の期間
- 有期労働契約を更新する場合の基準
- 就労の場所、従事すべき業務
- 始業・就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換
- 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払いの時期、昇給
- 退職(解雇の事由を含む)
相対的明示事項(定めをする場合には、明示しなければならない事項)
労働基準法施行規則5条1項4号の2から11号で定めた場合には明示を義務づけられている労働条件は以下の通りである。
- 退職手当
- 臨時に支払われる賃金、賞与等、最低賃金額
- 労働者に負担させる食費、作業用品等
- 安全及び衛生
- 職業訓練
- 災害補償及び業務外の傷病扶助
- 表彰及び制裁
- 休職
書面の交付による明示が義務づけられているもの
絶対的明示事項(昇給に関する事項は除く)は原則として書面の交付による明示が義務づけられている。
明示条件と事実が相違する場合
法15条2項
「法15条1項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働条件を解除することができる」
法15条3項
「前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日いないに帰郷する場合においては、使用者は必要な旅費を負担しなければならない」
罰則
法15条1項及び3項違反については30万円以下の罰金である。(法120条)
賠償予定の禁止
法16条
「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予約する契約をしてはならない。」
この条文は損害賠償額を予定することを禁止しているが、現実に生じた損害の賠償を請求することを禁止する趣旨ではない。
罰則は6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金である。(法119条)
前借金相殺の禁止
法17条
「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の再建と賃金を相殺してはならない。」
金銭貸借関係と労働関係を分離することで、金銭貸借に基く身分的拘束を防ぐ趣旨である。
労働者が使用者から人的信用に基いて受ける金融、弁済期の繰り上げなどで明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働することを条件とする債権には含まれない。
罰則は6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金である。(法119条)
強制貯蓄の禁止
法18条1項
「使用者は、労働契約に付随して貯蓄の契約をさせ、又は貯蓄金を管理する契約をしてはならない」
労働者の委託を受けた場合の貯蓄金の管理(任意貯蓄)
貯蓄金の管理には社内預金と通帳保管の2種類が存在する。
法18条2項
「使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理しようとする場合においては、当該事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある時はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない時は労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届けなければならない」
法18条3項
「使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合においては、貯蓄金の管理に関する規定を定め、これを労働者に周知させるため作業場に備え付ける等の措置を執らなければならない。」
法18条4項
「使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入である時は、利子をつけなければならない。この場合において、その利子が、金融期間の受け入れる預金の利率を考慮して厚生労働省令で定める利率(2025年2月時点では年5厘)による利子を下るときは、その厚生労働省令で定める利率による利子をつけたものとみなす。」
法18条5項
「使用者は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、労働者がその返還を請求したときは、遅滞なく、これを返還しなければならない。」
法18条6項
「使用者が前項の規定に違反した場合において当該貯蓄金の管理を継続することが労働者の利益を著しく害すると認められるときは、行政官庁は、使用者に対して、その必要な限度の範囲内で、当該貯蓄金の管理の中止すべきことを命ずることができる。」
法18条7項
「前項の規定により貯蓄金の管理を中止すべきことを命ぜられた使用者は、遅滞なく、その管理に係る貯蓄金を労働者に返還しなければならない。」
罰則は18条1項違反は6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、同7項違反は30万円以下の罰金である。
解雇
解雇は、使用者の一方的な意思表示による労働契約の解除である。労働者に退職する自由があるように使用者には解雇権がある。民法627条1項に定めがあるように「解約の申し入れから2週間を経過すると雇用契約は終了する」
しかし、最高裁判所の判例により、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することが出来ない場合には、権利の乱用として無効になる」という解雇権濫用法理が確立した。現在は労働契約法16条に規定されている。
解雇制限
法19条1項
「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条(産前産業休業)の規定によって休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。但し、使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りではない。」
法19条2項
「前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。」
解雇制限に関わる業務上の傷病若しくは疾病にかかった場合、打切補償を支払えば解雇できる。
ここで打切補償は療養の開始後3年を経過し、平均賃金の1、200日分の打切補償を支払えば解雇できる。(行政官庁の認定は不要)
若しくは当該労働者が療養開始後3年を経過し、労災保険法の傷病補償年金を受けることになったときは、打切補償を支払ったものとみなされる。
天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合。行政官庁=所轄労働基準監督署長の認定が必要。
この場合の天災事変その他やむを得ない事由とは、火災、天災(震災)等を指す。
当該やむを得ない事由とはならないものは、事業主が税金の滞納処分を受けたときや、経済法令違反のため強制収容された場合、経営難・金融難によるものも含まれる。
事業の継続が不可能とは、事業の一部縮小や一時休止は該当しない。
罰則は6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金である。
解雇予告
民法では使用者が労働契約の解除後2週間で終了するとしているところ、労基法では30日前からの予告を義務づけている。
法20条1項
「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りではない。」
法20条2項
「前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。」
法20条3項
「前条(19条)第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。」
予解雇予告ないし解雇予告手当の支払いを怠った場合の解雇の民事上の効力については、即時解雇としての効力は生じないにしても、解雇の意思表示の日から30日を経過するか、これに変わる解雇予告手当が支払われるか、そのいずれかの時から効力を生ずるというのが判例である。
解雇予告が不要となる場合(法20条1項但書)は、法19条と同じように行政官庁=所轄労働基準監督署長の認定を受けなければならない。天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合の解釈は法19条1項但書と同じである。
労働者の責めに帰すべき事由とは、解雇予告制度により労働者を保護するに値しないほど重大、悪質な義務違反や背信行為が労働者に存する場合であって企業内における懲戒解雇事由とは必ずしも一致しない。労働者の地位その他の要素を加味して総合的に行政官庁が判断することになる。
ここで、即時解雇の除外認定を受けられなかった場合、認定は即時解雇の効力発生要件ではなく、解雇予告除外事由(即時解雇事由)が客観的に存在する限り、即時解雇そのものは有効であるというのが判例である。
また、即時解雇の除外認定を受けられない場合も、適正な解雇予告又は解雇予告手当を支給して解雇することは労基法違反とはならない。参考判例はこちら。
解雇予告制度の適用除外
次に挙げる労働者は解雇予告制度は適用除外となる。但し、一定の事由が発生した場合は解雇予告が必要となる。(法21条)
- 日々雇い入れられる者=1ヶ月を超えて引き続き使用される場合
- 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者=所定の期間を超えて引き続き使用される場合
- 季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて使用される者=所定の期間を超えて引き続き使用される場合
- 試の使用期間中の者=14日を超えて引き続き使用される場合
罰則
罰則は6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金(法119条)である。
また裁判所は労働者の請求によって未払いの解雇予告手当と同一額の付加金の支払いを命ずることができる(法114条)
退職時等の証明
法22条1項
「労働者が、退職の場合において、使用機関、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)について証明書を請求した場合においては、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない」
法22条2項
「労働者が第20条第1項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。但し、解雇の予告がされた日以降に労働者が当該解雇尾以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以降これを交付することを要しない。」
法22条3項
「前2項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない」
法22条4項
「使用者は、予め第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第1項及び第2項の証明書に秘密の記号を記入してはならない」
罰則は第1項から第3項までの場合は30万円以下の罰金である。(法120条)
第4項の場合は6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金である(法119条)
金品の返還
労働者の死亡、退職の場合における使用者の未払い賃金の支払、金品の返還義務を規定したものである。
法23条1項
「使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日いないに賃金を支払い、積立金、補償金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。」
法23条2項
「前項の賃金又は金品に関して争がある場合には、使用者は、意義の内部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。」
法23条でいう権利者とは、労働者の死亡の場合は相続人、労働者の退職の場合には労働者本人をいい、一般債権者は含まない。
また、退職手当においては、就業規則などに支払時期が定められている婆は、7日以内ではなく、その支払時期に支払えば足りる。
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