労働基準法ー総則

総則とは

 法律の立法趣旨や法律での定義が書いてある条文です。ここをまず押さえましょう。

総則の項目

労働条件の原則

まず、第1条1項では何をもって憲法25条の生存権の理念を生かすのかを宣言しています。

法1条1項
 「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」

 憲法25条を労働条件において具現化したもので、人たるに値する生活とは生存権を侵さない最低限度の生活を保証しようとしています。

また、それを保証するように

法1条2項
 「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者はこの基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」

 この条文の解釈としては、労基法のは最低基準だからそれを満たせばそれでいいいよねと言うことは禁止している。
 しかし経済状況の悪化など企業の経営状況の悪化を理由として労働条件を悪化させることを求めたり話し合ったりすることまでは禁止していないことに注意が必要である。

労働条件の決定

 法第2条1項
 「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」

 法第2条2項
 「労働者及び使用者は、労働協約1、就業規則2、及び労働契約3を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」

 民法においては契約自由の原則から、使用者と労働者は自由に契約の内容(雇用契約)を結ぶことが出来る。但し、その場合賃金を支払う側の使用者の立場が強く、労働者側に不利になることが往々にしてあったため、労働者と使用者が対等の立場で決定するという宣言をしている。

 第2項はお互いが締結した労働契約等に従った誠実な履行を義務づけているものである。

 就業規則に満たない労働条件を定めた労働契約はその部分で就業規則のものに置き換わる。
 また、所属する労働組合の労働協約に満たない就業規則はその範囲で労働協約に置き換わる。
 そして、いずれの条件も労基法に定める条件を下回ってはならない。

均等待遇

 法3条
 「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱をしてはならない」

 その他の労働条件は解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件も含みます。(通達あり)

 ここでは禁止されていないが、労働組合員を理由に差別することは労働組合法7条で禁止している。
 また、男女差別は男女雇用機会均等法で禁止している。

 罰則は6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金である。(法119条)

男女同一賃金の原則

法4条
 「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱をしてはならない。」

 労基法は賃金についてのみ男女差別を禁止している。労基法上は他の労働条件の男女差別は禁じられてはいないが、男女雇用機会均等法上で定められている。

 罰則は6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金である。

強制労働の禁止

法5条
 「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。」

 かつての暴行や脅迫等の不当な手段により労働を強制する封建的な悪習を排除するため、憲法18条の趣旨を受けて、労使関係における強制労働を禁止している。

 長期労働契約、労働契約不履行に関する賠償予定契約4、前借金契約5、強制貯蓄6のような手段が、不当に拘束する手段に該当する。

 罰則は1年以上10年以下の拘禁刑又は20万円以上300万円以下の罰金である。(法117条)この罰則は労基法上最も重いものである。

中間搾取の排除

法6条
 「何人も法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」

 労働者の生活を脅かし、ひいては強制労働の温床となりやすい、労働ブローカーなどによる中間搾取の悪弊を除去しようとする趣旨である。
 ここで言う業とは、反復継続の意思を持って一定の行為をなすことであって、1回の行為でも反復継続の意思が明らかであれば条件を満たす。

・法律に基づいて許される場合とは

 (1)職業安定法30条の規定により有料職業紹介事業を行う者が、同32条の3の規定による手数料を受ける場合
 (2)職業安定法36条の規定により労働者の募集に従事する者が、雇用者から厚生労働大臣から認可を受けた報酬を受ける場合
 (3)労働者派遣法5条による厚生労働大臣の許可を受け労働者派遣事業を行う場合

 罰則は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金である。(法118条)

公民権行使の保障

法7条
 「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、または公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。」

 使用者は拒むことは原則として出来ないが、その時間を有給にする義務はない

・公民権としての権利としては以下の項目が挙げられる
 (1)選挙権・被選挙権
 (2)最高裁判所裁判官の国民審査
 (3)住民投票・国民投票
 (4)行政事件訴訟法による民衆訴訟
 (5)選挙人名簿に関する訴訟
 (6)選挙人名簿の登録の申し出

・公民権としての権利に該当しない場合は以下の理由が挙げられる
 (1)他の立候補者のための選挙運動
 (2)訴権の行使一般(行政事件訴訟法による民衆訴訟、選挙人名簿に関する訴訟は除く)

・公の職務に該当する項目は以下の事由があげられる
 (1)衆議院議員その他の議員
 (2)労働委員会の委員、陪審員、検察審査員、労働審判員、裁判員、法令に基づいて設置される審議会の委員等の職務
 (3)見印字訴訟法による承認、労働委員会の証人等の職務
 (4)選挙立会人等の職務

・公の職務に該当しない項目は以下の事由があげられる
 (1)予備自衛官の防衛正宗及び訓練召集
 (2)非常勤の消防団員の訓練召集

「最高裁判例(十和田観光電鉄事件):(全文はこちら)」
公職の就任を使用者の承認にかからしめ、その承認を得ずに公職に就任したものを懲戒解雇にするという就業規則は労基法7条に反し、無効のものと解するべきである。

 罰則は6ヶ月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金である。(法119条)

適用事業等

 「労働基準法は、業種のいかん、規模の大小を問わず、他人を1人でも使用するすべての事業又は事務所に適用される。」

 事業とは、業として継続的に行われるものをいい、営利目的を持って行われる者は勿論、営利目的の無いもの(社会事業団体や宗教団体が行う継続的活動)も事業に該当する。

 法別表第1に列挙しているのは適用の異なるものや、適用除外となるなどの規定があるためである。

 また、事業又は事務所が何かという問題とは別に、適用の単位の問題がある。事業主の有する事業所などの全てがひとつの事業として取り扱われるのではなく、適用単位の捉え方については別途通達が出ているが、以下の通りに考えられている。
 (1)ひとつの事業であるかどうかは主として場所的観念によって決定される。
 (2)同一場所にあっても著しく労働の態様を異にする部門がある場合は、独立した事業として適用する。例として工場内にある食堂や診療所が該当する。
 (3)場所的に離れていても出張所や支所などであって規模が小さく、独立性もなければ直近上位の気候と一括して適用する。新聞社の支社と通信部などが該当する。 

適用除外

労基法の適用事業にも例外が存在する。

・同居の親族のみを使用する事業(法116条2項
 同居の親族(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)のみを使用する事業には労基法による規制はなじまないとの考えである。

・家事使用人(法116条2項)
 家事使用人(家事一般に使用される労働者)の行う家庭内の私生活の補助業務に就いてまで労基法による規制を加えることは適当ではなく、また監督の手を一般家庭にまで及ぼすことは事実上不可能であるとの考えである。
 「行政解釈(昭63.3.14基発150号)」
 ・法人に雇われ、その役職員の家族において、その家族の指揮命令の下で家事一般に従事している者は家事使用人である・
 ・個人の家庭における家事を事業として請け負うものに雇われてその指揮命令の下に当該家事を行う者は、家事使用人に該当しない

・国家・地方公務員、船員など
 一般職の国家公務員には国家公務員法が適用される。
 一般職の地方公務員には地方公務員法が適用される。
 船員は総則、適用除外及び罰則の規定のみ労働基準法の適用を受ける。その他は船員法が適用される。
 

労働者

法9条
 「この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(「以下事業という」)に使用されるもので、賃金を支払われる者をいう。」

 法9条で労基法の保護対象である労働者の範囲を明確にしている。
 事業に使用されるとは、事業主との間にいわゆる使用従属関係のあること、つまり使用者の指揮命令の下に労働力を適用する関係のあることを意味する。従って、労働者かどうかの基準は指揮監督命令の有無を判断する必要がある。

使用者

法10条
 「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。」

 事業主とは事業主体のことで、個人企業では事業主個人、法人では法人そのものをいう。
 経営担当者とは、事業経営一般について責任を負う者。
 事業主のために行為をするすべての者とは、人事・労務管理等について権限を与えられている者をいい、実態で判断する。

出向の場合

 ・移籍出向の場合
  移籍出向とは、出向先との間のみ労働契約関係にあるから出向元と出向労働者との労働契約関係は終了している。従って、使用者は出向先のみになる。
 ・在籍出向の場合
  在籍出向とは、出向元との契約関係が存続して、権限に応じて出向元及び出向先が労基法上の使用者となる。

労働者派遣の場合

 労働者派遣事業については、派遣元の労働者として労働契約を締結することにより合法的な労働関係が生じる。従って派遣元が労基法上の使用者の責任を負う。しかし派遣先で労働者は指揮監督命令を受けるため、派遣先においても使用者の責任を負うことになる。
 派遣元、派遣先の責任は労働者派遣法に定めがある。

賃金

法11条
 「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」

・労働の対価として支払われるものとは
 労働者と使用者との使用従属関係、即ち使用者の指揮命令の下に行われる労働に対して、その報酬として支払われるものである。
・賃金とはならないもの
 労働の対価として支払われないものがそれに当たる。
 ・任意的・恩恵的な給付(結婚祝い金・見舞金等)
 ・福利厚生施設(住宅・食事等)
 ・企業設備の一環(制服・作業着・旅費等)
 但し、賃金とはならないものでも、労働契約、就業規則、労働協約等によって予め支給条件の明確なものは賃金となる。

・賃金となるもの
 事業主の負担する労働者の税、社会保険料の労働者負担分
 労基法26条の休業手当
 労働協約による通勤定期券

平均賃金

法12条1項
 「この法律(労基法)で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3ヶ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。」

①算定期間
 起算日は算定すべき事由の発生した日である。賃金締切日がある場合は、原則として直前の賃金締切日から起算する。(法12条2項)

②控除期間
 算定期間中に次のいずれかに該当する期間がある場合はその期間中の日数は総日数から控除する。(法12条3項)
 i)業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業した期間
 ii)産前産後の女性が法65条の規定によって休業した期間
 iii)使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間
 iv)育児休業・介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律に規定する育児休業、介護休業をした期間
 v)試の使用機関。但し使用期間中に算定事由が発生した場合にはその期間中の日数は3ヶ月の期間に算入する。

③算定期間中の賃金の総額のみから控除するもの(法12条4項)
 i)臨時に支払われた賃金
 ii)3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
 iii)通貨以外のもので支払われた賃金で法令または労働協約に基づかないもの。

④最低補償額(法12条1項但し書き)
 i)賃金が、日、時間に寄って算定され、又は出来高払い制その他請負制によって定められている場合(法12条1項1号)
  最低補償額=(算定期間中の賃金の総額)を(算定期間中の実際に労働した日数)で除した金額の100分の60
 ii)賃金の一部が、月、週、その他一定の期間によって定められている場合(法12条1項2号)
  最低補償額=(その部分の賃金の総額)を(その期間の総日数)にi)で計算した額

⑤日雇い労働者の平均賃金
 原則:
 平均賃金=(1ヶ月間に支払われた賃金総額)を(1ヶ月間に当該日雇い労働者がその事業所で実際に労働した日数)で除した額の100分の73
 例外:原則で計算できない場合
 平均賃金=(1ヶ月間に事業所で同一業務に従事した日雇い労働者に支払われた賃金総額)を(1ヶ月間にこれらの非違雇い労働者がその事業場で労働した総日数)で除した額の100分の73

脚注

  1. 労働組合と使用者及びその団体が労働条件等について、書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印したもの。労働組合法14条に定めがある ↩︎
  2. 常時10人以上の労働者を使用する使用者が、労働者の過半数で組織される労働組合又は労働者の過半数を代表する者の意見を聴いて定めるもの。詳細は就業規則の欄で ↩︎
  3. 労働者と使用者が個別に結んだ契約 ↩︎
  4. 労基法16条で禁止されている。 ↩︎
  5. 労基法17条で禁止されている。 ↩︎
  6. 労基法18条で禁止されている。 ↩︎

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